平成27年4月1日から、パートタイム労働法が改正施行されます。
今回の改正は平成20年4月からの7年ぶりの改正となる。法改正に伴い、施行規則、パートタイム労働指針も改正となった。

改正点を条文とともに解説を行った。
なお、解説については、私の個人的な見解も含まれているため、ご注意願いたい。
疑問点については、各県労働局雇用均等室まで、照会を願いたい。

1.短時間労働者の均等・均衡待遇の確保

(1)「短時間労働者の待遇の原則」の新設<法第8条(新設)>

(短時間労働者の待遇の原則)
第8条 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

【解説】
パートタイム労働者の待遇を正社員と相違させようとする場合には、職務の内容(業務の内容及び責任の程度)及び職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
パートタイム労働者の待遇の原則を規定したものであり、法第9条から法第12条までに規定される事業主が講じるべき措置の前提となる考え方を明らかにしたものである。
パートタイム労働者の職務の内容及び職務の内容及び配置の変更の範囲が正社員と異なるかどうかを明らかにすることが、パートタイム労働者の待遇に対する納得性を高めることとなる。
職務の内容を明らかにする手法として「職務分析」が有効である。
この法第8条について、具体的な行政指導が行われることはないが、この法第8条は労働契約法20条にならったものであり、この条文を根拠に裁判において民事的効力が及ぶことも考えられる。しかし、このことは司法判断のため、今後の裁判にゆだねられる。

(2)正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大<法第9条改定、旧法第8条2項削除>

(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第9条 事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2 前項の期間の定めのない労働契約には、反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含むものとする。

【解説】
パートタイム労働者であっても正社員と比べ(1)職務の内容が同じ(2)人材活用の仕組みが同じ場合には、正社員と同じ待遇にしなければならない。
現行法では、上記(1)(2)の他に(3)期間の定めの無い労働契約(無期労働契約)を締結していることが条件としていた。逆からいえば期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結していれば、正社員と待遇に差を設けても良かったことになる。平成25年4月の労働契約法改正により、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止が規定されており、パートタイム労働法上でも同じ趣旨で規定から削除された。

(3)一定期間、人材活用の仕組みが同じ場合の努力義務の削除<法第10条(旧法第9条2項削除)>

(賃金)
第10条 (略)
 事業主は、前項の規定にかかわらず、職務内容同一短時間労働者(通常の労働者と同視すべき短時間労働者を除く。(略))であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主に雇用される期間のうちの少なくとも一定の期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるものについては、当該変更が行われる期間においては、通常の労働者と同一の方法により賃金を決定するように努めるものとする。

【解説】

“現行法第8条の無期労働契約要件の削除に伴い、有期契約労働者を主な対象としていた現行法第9条第2項(一定期間、人材活用の仕組みが同じ場合の努力義務)が削除された。”とパンフレットには記載があるが、これは「一定期間同じ」ということばの解釈の誤りであろう(筆者私見)。一定期間同じとは例えば地域限定社員において、店長に昇進する間までは店舗間の異動がないというような場合であり、この昇進の範囲においては正社員と同じ賃金の決め方をするように求めたものである。

理由はともかく、この規定は削除された。

(4)職務の内容に密接に関連して支払われる通勤手当は均衡確保の努力義務の対象となる<施行規則第3条(括弧書きの追加)>

(賃金)
第10条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者(通常の労働者と同視すべき短時間労働者を除く。次条第2項及び第12条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金(通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。

(法第10条の厚生労働省令で定める賃金)
第3条 法第10条の厚生労働省令で定める賃金は、次に掲げるものとする。
1.通勤手当(職務の内容(法第8条に規定する職務の内容をいう。以下同じ。)に密接に関連して支払われるものを除く。)
2.~6.(省略)

【解説】
正社員と実質的に同じ働きをするパートタイム労働者以外のパートタイム労働者については、職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験を勘案して、その賃金を決定する努力義務がある。ただし、その賃金の中で通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものは除かれる。
改正点は通勤手当といえども、現実に通勤に要する交通費等の費用の有無や金額如何にかかわらず、一律の金額が支払われている場合については、職務に密接に関連する賃金であり、均衡待遇を確保する上での賃金であることを明確化している。以下家族手当等についても同じである。

2.パートタイム労働者の納得性を高めるための措置

(1)パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設<法第14条第1項(新設)>

(事業主が講ずる措置の内容等の説明)
第14条 事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、第9条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間労働者に説明しなければならない。

【解説】
労働基準法第15条第1項でも、労働条件の明示を義務付けている。パートタイム労働者の場合は個々の労働者ごとに労働条件が異なる場合が多く、そのため、パートタイム労働法第6条(労働条件に関する文書の交付)では昇給・賞与・退職金の有無(特定事項という。)を労基法の明示項目に加え、規定している。
さらに、第14条では第9条から第13条までに規定したパートタイム労働者の均等・均衡待遇のために講ずべき措置とした内容について、雇入れ時にパートタイム労働者に対し説明することを義務付けた。

(2)説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止<指針第3の3の(2)>

第3 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等
3 (2)事業主は、短時間労働者が、短時間労働者法第14条第2項に定めに定める待遇の決定に当たって考慮した事項の説明を求めたことを理由として不利益な取扱いをしてはならない。また、短時間労働者が、不利益な取扱いをおそれて、短時間労働者法第14条第2項に定める説明を求めることができないことがないようにするものであること。

【解説】
具体的には、説明を求めることにより、不利益な取り扱いを受けることが想起されかねない言動をすべきでないこと。

(3)パートタイム労働者からの相談に対応するための体制整備の義務の新設<法第16条(新設)>

(相談のための体制の整備)
第16条 事業主は、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に関し、その雇用する短時間労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならない。

【解説】
パートタイム労働者は、就業の実態が様々であり、正社員と待遇が異なる理由が分かりにくく、これが不満につながりやすい。そのために必要な体制の整備を義務付けたものである。必要な体制の整備とは、パートタイム労働者からの苦情を含めた相談に応じる窓口等の体制を整備することである。窓口は個人、組織を問わない。また、外部専門機関への委託も可能である。

(4)相談窓口の周知<新法第6条(変更無し)><施行規則第2条4号(追加)>

(労働条件に関する文書の交付等)
第6条 事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第14条第1項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。

<施行規則第2条>
(法第6条第1項の明示事項及び明示の方法)
第2条 法第6条第1項の厚生労働省令で定める短時間労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。
1~3(略)
4 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

【解説】
2.(1)で解説した特定事項に相談窓口の周知が追加された。
事業主は文書等の交付により明示しなければならないため、具体的には労働条件通知書(または雇用契約書等)に「相談窓口」の追記が必要となる。

(5)親族の葬儀などのために勤務しなかったことを理由とする解雇などについて<指針第3の3の(3)(追加)>

(不利益取扱の禁止)
第3 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等
3(3)短時間労働者が、親族の葬儀等のために勤務しなかったことを理由として解雇等が行われることは適当でないものであること

【解説】
「親族」や「葬儀等」の範囲や「勤務しなかった」日数等については、社会通念上勤務しないことが許容される範囲のものが該当するとされる。
解雇等には契約期間の更新をしないことも含まれる。

3.パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設

(1)厚生労働大臣の勧告に従わない事業主の公表制度の新設<法第18条第2項(新設)>

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)
2 厚生労働大臣は、第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで及び第16条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 前2項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

【解説】
法違反が確認された場合、労働局は「助言」「指導」「勧告」という手順により違法状態の解消を事業主に促す。その「勧告」にも従わなかった場合には、公表することができることとした。

(2)虚偽の報告をした事業主に対する過料の新設<法第30条(新設)>

(過料)
第30条 第18条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。

【解説】
法第18条第1項では、労働局長は事業主に対し、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告を行うことができるとしている。この規定に反し報告をせず、または虚偽の報告をした場合に20万円以下の過料に処せられる。